6年生の算数、最大の難所の一つが「円の面積」です。 「半径×半径×3.14」という公式を覚えた直後、テストやドリルで少し形が歪んだ「複合図形」が出てきたとき、子供たちからこんな声が上がったことはありませんか?
「先生、こんな形の面積の公式なんて習ってないよ!」
この言葉こそが、今の算数授業が抱える課題を象徴しています。子供たちにとって、面積を求めること(求積)が、いつの間にか「知っている公式に数字を当てはめるだけの作業」になってしまっているのです。
今回は、公式に頼るのではなく、自らの力で図形を攻略していく「求積の力」を育てる授業の組み立てについて、私の実践をご紹介します。
1. 教師がヒントを出しすぎていませんか?
例えば、正方形の中に円の一部が組み合わさった「ラグビーボール型(葉っぱ型)」の面積。 ついつい私たちは、良かれと思ってこんなヒントを出してしまいがちです。
- 「ここに補助線を引いてごらん?」
- 「この形を3つに分けて考えたらどうかな?」
しかし、これでは教師が「解き方のレール」を敷いているに過ぎません。子供は言われた通りに計算はしますが、次に新しい形に出会ったとき、また「先生、これどうやるの?」と立ち止まってしまいます。
私が提案するのは、教師が解き方を教えるのではなく、子供の中にある「見方」を引き出す導入です。
2. 魔法の問いかけ:「どんな形が見える?」
授業の冒頭、歪な形の図形を提示したとき、私はまずこう問いかけます。 「この図形の中に、どんな形が見えるかな?」
すると、子供たちからは公式の枠を超えた多様な言葉が溢れ出します。 「ラグビーボールみたい!」「葉っぱがある」「アイスのコーンを逆さにした形だ!」 さらに深まると、「ここだけ見れば扇形だ」「あ、直角二等辺三角形が隠れてる」といった、既習の図形(=面積が求められる形)を見つけ出し始めます。
思考を顕在化させる2つのステップ
多様な見方が出たところで、次の2つの質問を投げかけます。
- 「面積がすぐに求められそうな形はどれ?」 → 正方形、三角形、扇形など、既習の形を確かな武器として認識させます。
- 「求められそうにない、厄介な形はどこ?」 → ここで「ラグビーボール(葉っぱ型)」を本日のターゲットとして焦点化します。
「習っていないからできない」ではなく、**「習った形を組み合わせれば、未知の形も攻略できる」**というマインドセットへ切り替えるのです。
3. 着眼点を板書で「見える化」する
子供たちが解決に向かう際、私は単に計算式を並べるのではなく、**「何に注目したか(着眼点)」**を板書に明文化することを徹底しています。
具体的には、大きく分けて2つのアプローチが生まれます。
- 引き算(欠損)の考え方: 「扇形から三角形を引いて、ラグビーボールの半分を出す。それを2倍する」
- 足し算・全体からの除去: 「正方形から扇形を引いた『外側の形(そり立つ壁)』を2つ分求め、全体から引く」
ここで大切なのは、**「扇形と三角形に注目したんだね」「正方形と扇形に着目したんだね」**と、その子がどの図形を「武器」として選んだのかを価値付けることです。
4. 本質的な「旧積の力」を汎用化させる
授業の終盤、ラグビーボールの面積が求められただけで終わってはいけません。 「今日の学びは、他の形でも使えるかな?」と問い、本質的な考え方をまとめます。
- 分解・合成: 形を分けたり、足したりする。
- 移動: 形を動かして、知っている形に変形させる。
- 補助線: 見えない形を見えるようにする。
これらは、円の面積に限らず、5年生の台形の面積や、将来出会うどんな複雑な図形にも通用する**「一生モノの算数力」**です。
結びに:子供を「図形の解剖学者」にしよう
算数の授業は、公式を覚えさせる場ではありません。 目の前の複雑な問題を、自分の持っている武器(既習事項)を使って解剖し、攻略していく楽しさを味わわせる場です。
「どんな形が見える?」
この一言から始まる授業は、子供たちを「受け身の学習者」から「探究心あふれる解剖学者」へと変えてくれます。
明日、黒板に歪な図形を一つ描いて、子供たちに聞いてみてください。きっと、私たちが想像もしなかったような面白い「形」を見つけてくれるはずです。
