友達と考え合う社会科授業で「学校にいたい」という願いを実現したAさんの物語
本実践は、社会科の授業を通して、友達と考え合う学習が、児童の学びに向かう姿勢にどのような変化をもたらしたのかをまとめたものである。
Aさんは、半日登校が続いていた児童であり、当初は「学校で学ぶ意味」を見いだせず、失敗することや友達からどう見られるかを過度に気にしながら学校生活を送っていた。発言場面では「間違えないこと」が最優先となり、自分の考えをもつこと自体に不安を抱えている様子が見られた。
授業づくりで大切にしたこと
社会科「私たちの暮らしと政治」の学習では、正解が一つに定まらないオープンエンドの問いを設定した。Aさんは当初、答えが決まっていない問いに強い戸惑いを示し、話し合いにも消極的であった。しかし、友達の多様な考えを聞く中で、「考えが違ってもよい」という雰囲気が少しずつ共有されていった。
続く「室町文化と力をつける人々」の学習では、シンキングツールを用いて考えを整理し、友達の考えと比較しながら解釈を深める活動を行った。考えを可視化できたことで、Aさんは自分の考えを言葉にしやすくなり、分からないことは友達に質問したり、友達の考えの良いところを取り入れながら、自分の考えを修正したりする姿が見られるようになった。
Aさんの変容が表れた場面
「不平等条約の改正」を扱った学習では、「条約改正に一番影響を与えたのは日清・日露戦争、大日本帝国憲法、国会の開設・自由民権運動、その他のどれか」という問いを軸に探究を進めた。Aさんは「分からないままではなく、すっきりしたい」という思いと、「これまではあまり考えずに勉強していたけど、今は自分なりの解釈をして考えることが楽しい」と学習への思いが変化し、授業時間だけでなく休み時間にも友達と資料を調べ、意見を交わし続けるなど、主体的に学びに向かう姿を見せた。
この一連の学習を通して、Aさんの意識は「嫌われないように」から「友達への感謝」へ、「間違えないように」から「考えることを楽しむ」へと変化していった。その結果、Aさんは毎日最後まで登校できるようになった。
フィードバックから見えたこと
本実践について協議を行う中で、いくつかの課題も明らかになった。特に、Aさんの大きな変容に焦点を当てるあまり、なぜその変化が生まれたのかを、授業内容や問いの質と十分に結びつけて説明しきれていなかった点である。
オープンエンドの問いを設定したこと自体が重要なのではなく、「不平等条約の改正」という歴史的事象を、多角的に捉え、自分の考えをもつことにどのような価値があるのかを、より意識的に言語化する必要があったと感じている。また、Aさんがなぜ完璧主義的な姿勢をもっていたのか、社会科のどのような特性がAさんの心を開いたのかといった、生徒理解の視点も、今後さらに深めていきたい。
今回の実践を通して、友達と考え合う社会科の学びは、知識の獲得にとどまらず、児童が自分の考えをもち、他者と共に学ぶ価値を実感する場になり得ることを再認識した。また、学校に行きたいと思う大きな原動力にもなる。今後も、児童の姿と教材の価値を往還しながら、子どもが自己認識や自分の考えを変革していくことのできる授業づくりを続けていきたい。
授業てらす おざ
