「低学年のボールゲームが、団子状態で終わってしまう」「規則を工夫させたいけれど、1年生には難しい」「転がす動きを、どの単元で扱えばいいか分からない」。低学年の体育を担当する先生から、よく聞く悩みです。
この記事では、授業てらす体育チームの河田侃也先生(国立学園小学校 体育専科)によるオンラインセミナー「みんながたのしい!しってぃんぐころころほっけぇ」の内容を、先生ご本人の学習指導案とあわせてまとめました。1年生がペアで座ってボールを転がし合うゲームを通して、「規則を工夫・選択する力」と「空いているスペースを見付ける力」を育てる実践です。

- なぜ1年生で「投げる・蹴る」ではなく「転がす」ゲームなのか
- 規則は3つまで、みんなで工夫、スペースを意識する「3つの原則」
- 単元計画と、本時(1/8時)の指導案(指導案PDF付き)
- 子どもたちが生み出した規則の工夫と作戦
- セミナー当日の質疑応答(団子状態・評価・振り返り・運動量)
この記事は、全国の小学校教員が実践を学び合うオンラインコミュニティ「授業てらす」のセミナー内容と、河田先生の学習指導案をもとに編集しています(2026年10月時点)。
講師紹介|河田侃也先生(国立学園小学校)
東京都の公立小学校で約10年間担任を務めたのち、2026年度から国立学園小学校の体育専科として勤務。ICTを活用した体育の授業づくりにも取り組んでいます。授業てらすでは体育チームのメンバーとして、低学年から高学年まで子ども主体の体育授業を提案しています。
| ICT活用・ 教育活動 |
SKYMENU エキスパートTeacher ミライシード DXエデュケーター メタモジマイスター スクさぽ認定サポーター |
|---|---|
| 研究歴 | 令和4年度 東京教師道場 体育・保健体育 部員 令和6年度 NPO健康・体育活性化センター第14期 部員 令和7年度 東京都生活科・総合的な学習の時間研究会 研究員 |
| 執筆 | 『みんなの教育技術』連載 『楽しい体育授業』2025年1月号 執筆 明治図書『改訂のゆくえ 体育・保健体育』部分執筆 |
| 所属・活動 | 小学校体育研究会 体の動きを高める部会 東京都体育研究会 月曜会 東京都組体操をつくる会 授業てらす 体育チーム など |
「体育が得意な子」ってどんな子?
セミナーは、参加者がスマホで答えるクイズアプリ「Kahoot!」を使った双方向の形で進みました。最初の問いは「体育が得意な子どもって、どんな姿?」。参加した先生からは「動きの調整がうまい」「協力し合える」「楽しんでいる」といった声が集まりました。
河田先生が大切にしているのは、運動ができる子だけが「体育が得意」なのではないという見方です。準備や片付けを一生懸命やる子、友達をよく見て応援する子も、体育が得意な姿。授業の中でも、友達を応援している子に「体育が得意だね」と声をかけているそうです。
スポーツとの関わり方は「する」だけじゃない
豊かなスポーツライフにつながる4つの関わり方
| する | 実際に運動する 授業では:ゲームや運動遊びに取り組む |
|---|---|
| みる | 見て、応援する 授業では:友達の動きを見て、声をかける |
| 支える | 準備・片付け、ボランティア 授業では:用具の準備や片付けを進んで行う |
| 知る | 規則や行い方を知る、本で読む 授業では:規則や技の行い方を理解する |
なぜ1年生で「転がす」ゲームなのか
低学年のボールゲームは、投げたボールが上下に動く3次元のゲームが多く、子どもは「どこに動けばいいか」が分からず、ボールに集まって団子状態になりがちです。河田先生は、中・高学年のボールを持たないときの動き(オフザボール)につなげるためにも、まずは2次元(平面)で動くゲームで「空いているところ」を見る経験を積ませたいと考えました。
シッティングホッケーは、座った状態でボールを転がして攻防するゲームです。移動の速さの差が小さくなり、見るのは相手の横だけなので、空いている場所が目で見て分かりやすくなります。また、「投げる」「蹴る」に比べて「転がす」を中心にした教材は少なく、ボウリングのような転がす技能を繰り返し経験できる点も、この教材を選んだ理由です。
ゲーム領域の3つの原則と、はじめの規則
河田先生がゲーム領域の単元をつくるときに大切にしているのが、次の3つの原則です。
はじめに子どもに示した規則は、次の3つだけです。1年生の6月の実践なので、すべてひらがなで示しています。
しってぃんぐほっけぇの るうる
| 1 | ぺあで むかいあって すわるよ! |
|---|---|
| 2 | あいての よこ(ごおる)を ぼおるが つうかしたら かちだよ! |
| 3 | ぼおるを とおせるかが おもしろい! |
分かりやすい規則だからこそ、子どもから「簡単に負けちゃった!」「友達の遠くをねらえばいいんだよ!」「転がしてない子がいた!」といった問いが出てきます。この問いを全体で共有し、規則を見直していくのが単元の流れです。
単元計画
シッティングホッケーだけで終わらせず、ゲーム領域として1年間のつながりを考えて単元を組んでいます。前の単元の鬼遊びでは、「線を出ている子がいた」「あっちまで行っていいの?」という声から学級全体で規則を確かめ、「空いているところに走れば鬼がいない」という気付きを「スペース」という言葉で押さえています。
| 単元 | 時数 | つながり |
|---|---|---|
| 鬼遊び | 6時間 | 学級全体で規則を工夫・選択する。空いているスペースに走る(陣取り型につながる) |
| シッティングホッケー (本単元) |
8時間 | ペアで規則を工夫・選択する。空いているスペースにボールを転がす |
| 的当て | 8時間 | ねらったところにボールを投げる |
| ネット型につながるゲーム | 8時間 | 相手のいないところをねらう(ネット型につながる) |
単元のはじめは学級全体の規則から入り、だんだんとペアや一人一人が自分に合った規則を選ぶことにつなげていきます。「本当に自分に合った規則は、クラス全体で決めた規則なのか?」という問いが、この単元の出発点になっています。
本時の指導案(1/8時)
- 研究主題:シッティングホッケーを通して、第1学年の子どもたちが、ペアでのゲームの中で感じた問いから、規則の工夫や選択をしながら、友達とすすんでゲームに取り組むことができる授業展開の在り方を探る。
- 単元名:みんながたのしい!しってぃんぐころころほっけぇ(全8時間)
- 本時のねらい:シッティングホッケーの行い方を知ることができる。
| 段階 | 学習活動と主な発問 | 予想される子どもの反応 | 教師の支援 |
|---|---|---|---|
| 導入 | ①オリエンテーション ②準備運動 |
テレビに学習の流れを提示する。 | |
| やってみ タイム |
③まずはゲームをやってみる。 | 「勝てた」「ボールをキャッチできた」 | 子どもたちに「やってみてどうだったか」を問う。 |
| 共有 タイム |
④やってみてできた「問い」を共有する。 発問:やってみてどうだった? 発問:遠くに転がされると簡単に勝てちゃうけど、どうする? 発問:ボールを転がしてない子がいたみたいだよ? |
「遠くに転がされた」「キャッチできなかった」「どこまでか決める」「転がさないとダメ!勝ちじゃない!」 | 子どものつぶやきや困り感を全体で共有する。鬼遊びで規則を工夫したこととつなげ、学びのつながりを見える化する。 |
| やってみ タイム |
⑤問いから工夫した規則でゲームをする。 | 工夫した規則を守って遊んでいる子を称賛する。 | |
| まとめ | ⑥片付け・整理運動 ⑦振り返り |
全体で共有したことを守りながらゲームをしている子を称賛する。 |
練習から始めるのではなく、まずゲームをやってみる → 困ったことや気付いたことを共有する → 規則を工夫してもう一度やってみる、という循環を1時間の中でつくっているのがポイントです。
学習指導案(河田先生作成)
河田先生の学習指導案(A4・2ページ)です。研究主題、見方・考え方、規則の工夫、本時の展開まで、そのまま読めます。画像をタップすると大きく表示されます。


※指導案は、河田先生の許可を得て掲載しています。
子どもたちが生み出した規則の工夫と作戦
単元が進むと、子どもたちの問いから、さまざまな規則の工夫が生まれました。
| 子どもの問い・気付き | 生まれた工夫 |
|---|---|
| どこを通したら勝ちか分かりにくい | コーンや上履きを置いてゴールにする。体育館の線を使って「この間を通ったら勝ち」にする |
| 立ってやりたい | 体育館を半分に分け、座ってやる子と立ってやる子を選べるようにした |
| ゴールがせまくて難しい | ほかのペアの様子を見て、ゴールを広げる |
| コーンがない方がいい | ペアで相談して、コーンなしでゲームをする |
| ボールの大きさを変えたい | 大小さまざまなボールを用意し、自分たちで選ぶ |
作戦としては、「だまして(フェイントをかけて)転がす」「スペースを見付けて転がす」「ボウリングのように転がす」「走ってから勢いをつけて投げる」などが出てきました。
1年生は1人1台端末を配っていなかったため、河田先生がメタモジで「やってみてどうだったか」を記録し、テレビに映してホワイトボード代わりにしていました。また、ゲームの時間が長くなるので、約3分ごとにペアを変えることで、いろいろな友達と規則を選び直す場面をつくっています。
技能が難しくない分、子どもたちは楽しみながら規則を選べていました。「この子に合わせて」と友達に合わせて規則を選ぶ姿がたくさん見られたのが、実践してよかったところです。

セミナー当日の質疑応答
Q. 3年生のラインサッカーで団子状態にならないための手立ては?
A. コートに入る人数を少なくするのが1つの方法です。3年生だと、発達段階として見られるのは1〜2人、多くて3人程度。コートの数を増やして、3対3や2対2で取り組ませる環境づくりが有効です。手で操作できる「無敵ゾーン」も、苦手な子が楽しめる工夫になります。ボールの種類を選ばせるなど、子どもに合わせた環境から考えることもおすすめです。
Q. 書くことや発表が難しい1年生の「思考力」は、どう評価しますか?
A. 今回であれば「規則を選択する」場面で、友達のことを考えて規則を選んでいる子、話を聞けていない子は、授業をしながら見えてきます。A評価とC評価の子が見えたら、C評価の子を引き上げ、B評価の子も全体を通して高めていく、という見方で評価しています。
Q. 鉄棒やマット運動など、ゲーム性の少ない領域ではどう工夫しますか?
A. 安全な遊び方を指導したうえで、最初の時間は自由にやってみます。子どもから出てきた「つばめ」「こうもり」「ぶたの丸焼き」などの動きを称賛して広げ、その後「鉄棒ビンゴ」としてクラス全体で取り組む予定です。逆上がりにつながる「だんごむし」のように、子どもから出てこない動きは教師から伝えます。
Q. 「楽しかった」だけで終わらせない振り返りは?
A. 1年生は、整理運動をしながら「どんな動きが楽しかった?」を全体で確かめています。高学年では、フォームで振り返りを送り、Gemini(AI)にクラスごとの意見をまとめてもらってスプレッドシートで共有する方法を試しています。
Q. 座ったままのゲームで、運動量は確保できますか?
A. 準備運動に鬼遊びや体つくり運動を入れることを大切にしています。本実践では、ペアを3分ごとに替えながらゲームを繰り返したことで、夏の体育館では汗だくになるほど動いていました。立ってやる子は、キーパーのように全身を使う動きも多く見られました。ボールを取りに走る、交代するなど、ゲーム以外の場面でも体を動かす工夫ができます。
河田先生のほかの実践
- 河田侃也「第1学年 体育科学習指導案『みんながたのしい!しってぃんぐころころほっけぇ』」
- 授業てらす オンラインセミナー(河田侃也先生)
- 河田侃也先生 連載一覧|みんなの教育技術(小学館)
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説」

